遠隔医療(オンライン診療)とは?過疎地医療における可能性と課題
前回のコラムでは、広島県呉市内の過疎地域が抱える医療課題について取り上げました。
呉市全体で見ると、人口当たりの医師数や病院数は全国平均を上回っています。しかし、こうした市全体の数字だけでは、島しょ部や市街地から離れた地域に暮らす人の移動時間や交通手段、医療機関の利用しやすさまでは分かりません。
広島県の保健医療計画では、呉圏域に無医地区はなく、呉市豊浜町の斎島が準無医地区とされています。一方、安芸灘4島などでは、交通の不便さに加え、医療施設の維持や医師の高齢化が課題になっています。
今回は、こうした地域における医療アクセスを支える手段の一つとして注目されている「遠隔医療」、なかでも医師と患者をつなぐ「オンライン診療」について、その可能性と限界の両面から考えます。
遠隔医療とオンライン診療の違い
遠隔医療とは、情報通信機器を活用した健康増進や医療に関する行為の総称です。
遠隔地にいる医師同士が画像や検査結果を共有して診断を支援する取り組み、地域の医師が専門医へ相談する仕組み、医師が看護師などの医療従事者を遠隔で支援する仕組みなども、遠隔医療に含まれます。
そのうちオンライン診療は、医師と患者が映像と音声を通じて互いの状態を確認しながら、診察、診断、診断結果の説明、処方などをリアルタイムで行う診療を指します。メールやチャットだけで完結する相談は、厚生労働省が定義するオンライン診療には該当しません。
オンライン診療は、対面診療を一律に置き換えるものではありません。患者の状態や診療内容に応じて、対面診療と適切に組み合わせることを前提とした診療方法です。
2026年に整備された「オンライン診療受診施設」
2026年施行の改正医療法では、「オンライン診療受診施設」という制度が設けられました。
オンライン診療受診施設とは、オンライン診療を行う医師が勤務する医療機関に対して、患者がオンライン診療を受けるための場所を提供する施設です。医療資源が少ない地域では、住民に身近な公民館や郵便局などを活用することが想定されています。
ただし、オンライン診療受診施設そのものが診察や治療を行うわけではありません。診療の責任は、オンライン診療を行う医師と、その医師が勤務する医療機関が負います。
施設を設置する場合は、都道府県知事などへの届出が必要です。また、清潔で安全な環境、外部から隔離された空間、患者のプライバシー、情報セキュリティ、通信機器の不具合や患者の急変に対応できる連絡体制などを確保しなければなりません。
この制度は、医療機関までの移動に30分以上かかる地域や、半径4km以内に医療機関がない地域だけに限定されるものではありません。地域の医療提供体制や住民の受診環境を踏まえ、安全で適切な運用が可能かを検討する必要があります。
広島県でも進むオンライン診療の実証
広島県は、令和7年度にオンライン診療・オンライン服薬指導の実証事業を実施しました。
この事業では、へき地の巡回診療、へき地への医師派遣、在宅医療などの場面で、医師が遠隔から診療し、患者のそばにいる看護師等が支援する「D to P with N」などの活用が検証されています。
広島県は、実証から得られた知見を「訪問診療においてオンライン診療を活用する手引き」としてまとめています。導入に必要な関係者間の調整、対象患者の選定、通信環境、診療当日の流れ、緊急時の対応などが整理されており、今後の地域展開に活用されることが期待されます。
オンライン診療は、機器を導入するだけで始められるものではありません。医療機関、訪問看護ステーション、薬局、自治体などが役割と責任を確認し、安全に対面診療へ切り替えられる体制を準備することが重要です。
過疎地域におけるオンライン診療の可能性
医療機関までの移動が大きな負担になっている地域では、自宅や身近な施設から医師の診療を受けられることに大きな意味があります。
オンライン診療を適切に活用できれば、患者本人の移動時間や身体的負担、家族による送迎や付き添いの負担を軽減できる可能性があります。慢性疾患などで継続的な診療が必要な人については、定期的な対面診療の一部をオンライン診療に置き換えたり、対面診療の間にオンライン診療を追加したりすることで、治療を継続しやすくなる場合があります。
移動負担が軽減されることで、受診や相談の機会を確保しやすくなることも期待されます。オンラインで状態を確認し、必要な人を適切な時期に対面診療へつなげることができれば、症状の悪化を防ぐうえで役立つ可能性があります。
また、地域の医師が都市部や大学病院などの専門医と情報を共有し、助言を受ける遠隔医療もあります。こうした医師間の連携を活用することで、地域だけでは対応が難しい診療科や疾患について、専門的な判断を得やすくなる場合があります。
ただし、すべての病気や症状をオンラインだけで診療できるわけではありません。オンライン診療に適しているか、対面診療が必要かは、医師が患者の状態や利用できる情報などを踏まえて判断します。
オンライン診療だけでは補えない部分
オンライン診療では、遠隔地にいる医師が患者を直接触診したり、通常の方法で聴診したりすることはできません。採血、画像検査、注射、処置など、医療機関でなければ実施が難しい診療行為もあります。
電子聴診器などの機器や、患者のそばにいる看護師等による診療補助で情報を補える場合もありますが、対面診療と同じ情報を常に得られるわけではありません。画面越しに確認できる情報だけでは安全な判断が難しいと医師が判断した場合は、速やかに対面診療へ切り替える必要があります。
また、通信環境が不安定な地域や、スマートフォンやタブレットの操作に不慣れな人にとっては、オンライン診療そのものが新たな負担になる場合があります。家族や支援者による機器操作の補助、聞こえや見え方への配慮、利用しやすい場所の確保なども必要です。
胸の強い痛み、呼吸困難、意識の異常、突然の麻痺など、緊急性が疑われる症状がある場合は、通常のオンライン診療の予約を待つのではなく、救急要請などの対応を優先しなければなりません。
過疎地域の医療課題は、オンライン診療を導入するだけで自動的に解決するものではありません。地域の医療機関、巡回診療、訪問診療、訪問看護、移動支援、救急搬送などと組み合わせて活用することが大切です。
訪問看護と組み合わせる「D to P with N」
機器の操作や状態把握などの支援が必要な患者に対する方法として注目されているのが、「D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)」です。
D to P with Nは、患者のそばに看護師等がいる状態で、遠隔地の医師がオンライン診療を行う形態です。看護師等は、通信機器の操作を支援したり、患者と医師の意思疎通を助けたりできます。
一定の条件を満たす場合には、医師の指示、診療計画、訪問看護指示書などに基づき、看護師等が検査、投薬、点滴、処置などの診療補助を行うことも可能です。
ただし、看護師等がその場で自由に検査や処置を判断して行えるわけではありません。実施できる内容は、看護師等の所属、医師からの指示、診療計画や訪問看護指示書、患者の状態などによって異なります。
また、オンライン診療受診施設で採血、注射、エコー検査などを行う場合については、衛生管理、医療機器の管理、検査精度、医療廃棄物の処理など、整理すべき課題が残っています。厚生労働省も、必要なガイドラインなどを今後検討するとしています。
D to P with Nは、オンライン診療で得られる情報を補い、高齢者などの受診を支援する方法として期待されていますが、対面診療を完全に代替するものではありません。
2026年度診療報酬で新設された評価
2026年度診療報酬改定では、「訪問看護遠隔診療補助料」が新設されました。
これは、在宅で療養している人や緊急に診療を必要とする通院困難な患者について、医師が看護師等の同席を必要と判断し、一定の条件のもとで看護師等が患者宅を訪問してオンライン診療を補助した場合を評価するものです。
訪問看護ステーションが関わる場合も対象になり得ますが、すべてのD to P with Nに自動的に適用されるわけではありません。患者の状態、訪問の目的、訪問看護計画、医療機関との連携体制、施設基準などの要件を満たす必要があります。
制度上の評価が整備されたことで、訪問看護とオンライン診療を組み合わせた支援を検討しやすくなりました。一方で、安全性と医療の質を確保しながら、実際の地域でどのように運用するかについては、今後も事例と検証を重ねる必要があります。
呉市の現場から考えるこれからの連携
呉市で訪問看護ステーションを運営する私たちにとって、オンライン診療と訪問看護の連携は、地域の暮らしと直結するテーマです。
日頃から利用者や家族と関わっている看護師が、必要に応じてオンライン診療の橋渡し役を担うことで、機器の操作だけでなく、普段の生活状況や体調の変化を医師へ伝えやすくなる可能性があります。
一方、実際に取り組むためには、連携する医療機関の確保、対象となる患者や診療場面の整理、訪問看護指示書などの手続き、通信環境、医療機器の管理、個人情報の保護、緊急時の対応などを具体的に決めなければなりません。
オンライン診療を導入すること自体を目的にするのではなく、患者本人にとって安全で、対面診療より負担を軽減できる場面はどこかを見極めることが重要です。
おわりに
オンライン診療は、医療機関までの移動が難しい人の通院負担を軽減し、継続的な診療や相談の機会を支える選択肢です。医療従事者が同席しない通常のオンライン診療でも、患者の状態や診療内容によっては有用です。
機器操作や状態把握、診療補助などの支援が必要な患者については、訪問看護と組み合わせたD to P with Nが有効な選択肢になる可能性があります。
ただし、オンライン診療は万能ではありません。対面診療、訪問診療、訪問看護、巡回診療、救急搬送などと適切に組み合わせ、安全性と医療の質を確保する必要があります。
私たちは今後、訪問看護とオンライン診療をどのように連携させることができるか、呉市の地域特性や住民のニーズを踏まえながら検討していきたいと考えています。
次回は、予防的ヘルスケアと見守りサービス「STARTWELL」が、地域医療の課題にどのように貢献できるかを取り上げます。
