Column

過疎地医療が抱える課題、訪問看護や遠隔医療の可能性、DX、地域活動がもたらす変化について、広島県呉市の現場から得た知見をもとに発信するコラムです。地域医療の「これから」を考えるヒントをお届けします。

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呉の高台からの風景

呉市内の過疎地域が抱える医療課題とは?島しょ部の現状とこれからの解決策

呉市は、瀬戸内海の島々や山地を含む、地理的に変化に富んだまちです。市内では、旧音戸町、旧倉橋町、旧下蒲刈町、旧蒲刈町、旧安浦町、旧川尻町、旧豊浜町、旧豊町の区域が過疎地域に指定されています。呉市全体が過疎地域というわけではありませんが、島しょ部や市街地から離れた地域では、人口減少と高齢化が進み、医療へのアクセスや提供体制の維持が課題になっています。

呉市の2020年の総人口は214,592人、高齢化率は35.5%で、同年の全国平均である約29%を上回っています。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、総人口は2050年に129,151人まで減少する見込みです。

人口減少と高齢化が同時に進むなかで、住んでいる場所にかかわらず、必要なときに適切な医療や支援を受けられる体制をどのように維持していくかは、呉市にとって重要な課題です。

市全体の医療資源と、地域ごとのアクセスには違いがある

日本医師会の地域医療情報システム「JMAP」によると、呉市の人口10万人当たりの常勤医師数は296.84人、病院数は11.18施設です。いずれも全国平均の常勤医師数256.98人、病院数6.30施設を上回っています。

ただし、これらは呉市全体を一つの単位として集計した数字です。診療科や病院機能、医療機関の所在地、住民の移動手段、医療機関までの所要時間などは反映されていません。そのため、人口当たりの医師数や病院数が全国平均を上回っていることだけで、すべての地域で医療を利用しやすいとは判断できません。

広島県の第8次保健医療計画によると、呉市では市域面積の58.5%が過疎地域に指定され、その地域に市人口の17.9%が暮らしています。呉圏域に無医地区はありませんが、呉市豊浜町の斎島が準無医地区とされています。また、安芸灘4島では医療施設の維持や医師の高齢化が課題として挙げられています。

島しょ部など交通の便が限られる地域では、医療機関までの移動が住民や家族の負担になります。こうしたアクセス上の制約は、受診の遅れにつながる可能性があるため、地域の医療機関を維持する取り組みに加え、巡回診療、在宅医療、移動支援、救急搬送体制、遠隔医療などを地域の実情に応じて組み合わせることが重要です。

訪問看護が担う在宅療養の支援

通院が難しい人の在宅生活を支える手段の一つが、訪問看護です。

訪問看護は、主治医の指示に基づいて看護師などが利用者の自宅を訪問し、健康状態の観察、療養上の支援、医療処置、服薬管理、リハビリテーションなどを行うサービスです。医療機関との距離そのものをなくすことはできませんが、通院の負担を軽減し、住み慣れた場所での療養を支える役割があります。

私たちが運営する「訪問看護ステーションうらにわ」では、安芸灘地域を中心に、利用者の状態や生活環境に応じた支援を行っています。定期的な訪問を通じて状態の変化に気づいた場合には、主治医やケアマネジャーなどの関係職種と連携し、必要な対応につなげます。

ただし、訪問看護がすべての診療や検査、救急対応を代替できるわけではありません。地域の医療機関や救急搬送体制と連携し、それぞれの役割を生かすことが大切です。

病気になる前の生活を支える予防と見守り

地域医療を持続可能なものにするには、病気になった後の治療だけでなく、日頃から健康状態や生活の変化に目を向けることも重要です。

私たちが提供する予防医療と見守りのサービス「STARTWELL」では、スマートウォッチから取得した歩数や睡眠などのデータを、日々の状態変化に気づくための参考情報として活用しています。普段と異なる傾向が検出された場合は、翌朝、訪問スタッフに通知される仕組みです。データの分析結果は、定期的な訪問時の声かけや健康づくりの支援にも役立てています。

一方、スマートウォッチなどから得られるデータは、病気を診断するものではありません。STARTWELLも、医療機器によるリアルタイム監視、緊急通報、救急出動を行うサービスではありません。強い症状や急な体調不良がある場合は、サービスからの通知を待たず、医療機関への相談や救急要請など、状況に応じた対応が必要です。

デジタル技術は、人による支援を置き換えるものではなく、限られた人員で日々の変化に気づくための補助的な手段として活用することが重要です。

地域のつながりを支えるコミュニティづくり

医療へのアクセスを考えるとき、医療機関や専門職の数だけでなく、住民同士のつながりにも目を向ける必要があります。

私たちが地域で開催しているコミュニティランチは、住民が食事をしながら交流できる場です。こうした機会は、人と会って話すきっかけとなり、孤立感の軽減や、互いの変化に気づくことにつながる可能性があります。

もちろん、交流の場だけで医療上の課題を解決できるわけではありません。しかし、日常的なつながりが保たれていれば、困りごとや体調への不安を周囲に相談しやすくなります。医療・介護の専門職による支援と地域住民のつながりを組み合わせることで、暮らしのなかに複数の支えをつくることができます。

地域の魅力を生かしたヘルスツーリズム

私たちは、呉市の自然や暮らしの魅力を生かしたヘルスツーリズムにも取り組んでいます。

健康やウェルビーイングをテーマに地域を訪れる人が増えることは、交流人口や関係人口の創出につながる可能性があります。地域外の人との交流が新たな活動や仕事を生み、地域の活力を支えることも期待されます。

ヘルスツーリズムが直接、医師不足や交通の問題を解決するわけではありません。それでも、地域を継続的に訪れ、関わる人を増やす取り組みは、長期的に地域の暮らしやサービスを支える環境づくりの一つになり得ると考えています。

テクノロジーが果たせるこれからの役割

訪問看護、予防・見守り、コミュニティづくりを限られた人員で持続していくためには、記録の共有や状態把握を支えるデジタル技術の活用も重要です。

オンライン診療やICTを使った情報共有は、医療機関までの移動が難しい地域で、受診機会の確保や関係職種の連携に役立つ可能性があります。厚生労働省も、医療へのアクセスが乏しい離島やへき地におけるオンライン診療の活用を進めています。

ただし、オンライン診療では触診や一部の検査・処置ができないなどの限界があります。高齢者が機器を操作する際の支援や、通信環境、個人情報の保護、対面診療へ切り替える基準も必要です。地域の課題をテクノロジーだけで解決しようとするのではなく、対面での診療や訪問支援と適切に組み合わせることが求められます。

おわりに

呉市内の過疎地域が抱える医療課題は、医師や病院の数だけでは説明できません。島しょ部などでは、交通の不便さ、医療施設の維持、医療従事者の高齢化、人口減少など、複数の問題が重なっています。

そのため、地域の医療機関を維持する取り組みに加えて、訪問看護による通院負担の軽減と在宅療養の支援、予防・見守りによる日々の変化への気づき、コミュニティによる孤立感の軽減、遠隔医療やICTによる連携支援などを組み合わせることが大切です。

どれか一つの方法ですべてを解決することはできません。地域の実情に合わせ、人による支援とテクノロジー、それぞれの長所を生かしながら、必要な医療や支援につながれる仕組みを持続的に整えていく必要があります。

私たちは、地域の医療機関や行政、介護・福祉関係者、住民の皆さまと連携しながら、呉市で安心して暮らし続けられる地域づくりに取り組んでいきます。

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